自筆証書遺言が無効にならないための注意点

最近は、自分の人生の最期を迎えるにあたってさまざまな準備をしておくという「終活」が話題になっています。

その中でも、人生最後の意思表示といえるのが「遺言」です。

一般的には、遺言を「ゆいごん」と読みますが、法律用語としては「いごん」といいます。

法律上、遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、この中でも最も簡単に作成できるのが「自筆証書遺言」です。

しかし、この自筆証書遺言を作成するにあたってはさまざまなルールがあり、そのルールに違反してしまうと遺言書としては無効となってしまいます。

また、せっかく作った遺言書でも、その内容が実現しなければ何のために作成したのかわかりません。

そこで、今回は、自筆証書遺言が無効にならないようにするためにはどのようにするべきかについて解説したいと思います。

自筆証書遺言の作成についてのポイント

民法968条1項は「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定しています。

この条文から、以下の点がポイントとして挙げられます。

必ず手書きで作成すること

この条文は「自書」と規定しています。

自書とは、自分で書くということです。

つまり、自筆証書遺言を作成する場合には、遺言者が、遺言書の全文、日付、氏名をすべて自分で書く必要があります。

例えば、パソコンで自筆証書遺言を作成したという場合には、手書きではないため無効となります。

遺言書の文面はパソコンで作成して、氏名だけを手書きしたとしてもやはり無効になります。

また、自筆以外は認められていませんので、例えば代筆で作成したという場合でも無効ということになります。

遺言者が他人の添え手による補助を受けて自筆証書遺言を作成した場合

例えば、病気や後遺症の影響で手が震えるようになったり、視力が著しく低下したりしたために、字を書こうとしても手が震えてしまってねじれてしまったり、次の字と重なってしまったりすることがあります。

このような状況の場合に、第三者に自分の手を握らせて、手を動かして遺言書を作成した場合に、「自書」といえるのかという問題です。

この点について、最高裁は次のように判示して、添え手による補助を受けた場合でも自筆証書遺言として有効となる場合があるとしています。

最高裁昭和62年10月8日判決

自筆証書遺言は遺言者が遺言書の全文、日附及び氏名を自書し、押印することによってすることができるが(民法968条1項)、それが有効に成立するためには、遺言者が遺言当時自書能力を有していたことを要するものというべきである。そして、右にいう「自書」は遺言者が自筆で書くことを意味するから、遺言者が文字を知り、かつ、これを筆記する能力を有することを前提とするものであり、右にいう自書能力とはこの意味における能力をいうものと解するのが相当である。したがつて、全く目の見えない者であっても、文字を知り、かつ、自筆で書くことができる場合には、仮に筆記について他人の補助を要するときでも、自書能力を有するというべきであり、逆に、目の見える者であっても、文字を知らない場合には、自書能力を有しないというべきである。そうとすれば、本来読み書きのできた者が、病気、事故その他の原因により視力を失い又は手が震えるなどのために、筆記について他人の補助を要することになったとしても、特段の事情がない限り、右の意味における自書能力は失われないものと解するのが相当である。

(中略)

「自書」を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1) 遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2) 他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3) 添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。

筆記用具について

手書きで作成するということ以外に、筆記用具についての指定はありません。

したがって、鉛筆でも毛筆でもボールペンでも万年筆でもよいということになります。

ただ、偽造されることを防ぐためには、鉛筆は避けたほうがよいと思います。

使用する紙について

筆記用具と同様に、どのような紙に書かなければならないという指定はありません。

したがって、便せんやコピー用紙、和紙などを使用すればよいということになります。

ただし、破れてしまうと書かれていた文字が読めなくなってしまうおそれがありますので、できるだけ丈夫な用紙を選んだほうがよいと思います。

遺言書を作成した日付について

日付は、遺言能力の存否に関する判断や、複数の遺言書が存在する場合の先後を確定するうえで重要です。

遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力をいいますが、意思能力のない者の意思表示は無効となるため、遺言も無効になります。

したがって、遺言書を作成した時点で遺言者に遺言能力があったか否かという問題は重要です。

また、遺言書を複数作成した場合、前後の遺言が内容的に抵触する場合(例えば、長男に財産を相続させるという遺言書を作成した後に、次男に財産を相続させるという遺言書を作成した場合)には、先に作成した遺言が撤回されたものと評価されることになります。

したがって、年月日まで客観的に特定できるように記載しなければなりません。

例えば「20○○年○○月○○日」「平成○○年○○月○○日」と記載するのが一般的です。

また、客観的に特定できればよいとされていることから、「自分の80歳の誕生日」や「自分の定年退職の日」などは裁判でも有効とされました。

これに対して、「〇月吉日」という日付は裁判で無効と判断されています。

氏名について

遺言書に遺言者の署名がないと無効になります。

氏名は戸籍上の氏名を記載するのが一般的ですが、例えば通称や雅号、ペンネームでもよいとされています。

押印について

押印がない遺言書も無効になります。

押印する印章には制限はありませんので、必ずしも実印である必要はなく、認印でもよいとされています。

また、指印でもよいとされた裁判例もあります。

ただし、後に相続人の間で、遺言書に押印されている印章が遺言者のものではないと争いになるケースがありますので、できれば実印を使用することをお勧めします。

押印は、遺言の本文が書かれた書面上にされていれば足り、必ずしも署名の下にされていなくてもよいとされています。

また、遺言書本文が封筒に入れられ、その封筒の封じ目にされた押印を有効とした裁判例があります。

加除訂正について

民法第968条2項は「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」と規定しています。

したがって、単に遺言者が訂正箇所に斜線や二重線を引いて新たな事項を書き加えて押印するだけでは足りません。

加除訂正が多いと、遺言書としては読みにくいものができあがってしまいます。

そこで、書き間違えてしまったという場合には、たとえめんどうであったとしてもはじめから作成したほうが後で争いにならずにすみます。

夫婦共同の遺言書を作らない

民法第975条は「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定しています。

したがって、例えば夫婦が遺言書を作成しようとする場合には、2人で1つの遺言書を作成しても無効となりますので、夫婦それぞれが単独の遺言書を作成する必要があります。

証人は不要

自筆証書遺言を作成する際には、その作成に立ち会ったという証人は不要です。

しかし、せっかく作成した遺言書が「その遺言書は遺言者が作成したものではない」や「その遺言書は〇〇に書かされたものだ」などといって争いになることもあります。

そこで、例えば遺言書を作成している様子をビデオで撮影しておくなど、遺言者の意思で遺言書を作成したということを明確にしておくことをおすすめします。

遺言書の保管について

遺言書は作成すれば良いというものではありません。

ご自身の死後、ご遺族に遺言書を見つけてもらわなければ意味がありません。

したがって、わかりやすい場所に保管する必要があります。

配偶者やお子さんに保管場所を教えておくのもよいでしょう。

また、配偶者やお子さんに遺言書を預けておくという方法もあります。

この場合には、他の相続人から疑われるおそれもありますので、遺言書を封筒に入れて、封緘しておくとよいでしょう。

遺言書の検認について

自筆証書遺言については、家庭裁判所における検認を受ける必要があります。

遺言書の検認は、遺言の内容を相続人に対して明らかにすることにより、遺言書が偽造や変造されていないかを確認するための手続です。

あくまで確認と偽造・変造の防止が目的ですので、遺言書が有効か無効かの判断をする手続ではありません。

そこで、自筆証書遺言を作成した場合には、それを封筒に入れたうえで、その封筒に「開封せずに必ず家庭裁判所の検認を受けること」と記載しておくことをおすすめします。

遺言執行者の選任は書いても書かなくてもよい

遺言執行者とは、遺言の内容を正確に実現させるために必要な手続きなどを行う人のことです。

遺言者は自分の財産を誰に相続させるか、相続人以外にも誰に財産をあげるかなどを遺言書に記載することになりますが、その遺言書のとおりにきちんと処理してくれなければ、遺言書を作成した意味がありません。

そこで、遺言の内容を実現するために遺言執行者が必要になります。

遺言執行者については、遺言者自身が指定することができます。

その場合には、遺言書に「私はこの遺言の執行者として〇〇を指定する。」と記載することになります。

この遺言執行者については、相続人の中のどなたかでもいいですし、弁護士などの専門家を指定することもできます。

もし遺言執行者を指定していない場合には、相続人や遺贈を受けた者などの利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることになります。

最後に

以上が自筆証書遺言が無効にならないようにするための注意点です。

遺言書の作成については厳格なルールが存在し、そのルールに従っていない場合には無効とされてしまいます。

また、せっかく作った遺言書がきちんと保管されていなかったために日の目を見なかったり、ときには相続人の間で遺言書の有効・無効で争いになったりすることもあります。

このようなことがないようにするためには、できるだけ公正証書遺言を作成することをおすすめしますが、どうしても自筆証書遺言を作成したいということであれば、弁護士などの専門家に作成方法や保管方法などを相談することをおすすめします。

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