家事労働の対価に関する私の考え

離婚事件を担当していると、時折、夫が

「俺が稼いできた金を専業主婦である妻が勝手に使い込んだ」

とか

「俺が稼いできた金をなぜ離婚する妻に渡さなければならないのか」

などと主張されることがあります。

この考え方の根底にあるのは

「主婦による家事労働の対価は0円である」

ということにあるといえます。

つまり、夫が会社勤めや自営業などで得た収入は夫の「稼ぎ」であるのに対し、妻が家事を行ったとしてもお金を稼いでいるわけではない、そのため、生活費として支出することになるお金は夫が得た収入から賄われることになる、したがって、「夫婦が生活できるのは夫が働いて稼いできたおかげである」ひいては「夫が妻に食わせてやっている」という考えを持つことになる、というわけです。

はたして、この考え方は正しいといえるのでしょうか。

この点について、1つの考え方としてではありますが、念頭に置くべき判例があります。

それは、最高裁昭和49年7月19日判決です。

この判例は、交通事故により死亡した妻に死亡による逸失利益が発生するか否かという争点について判断したものであり、家事労働の対価についてストレートに判断したものではありませんが、大変興味深いものです。

「おもうに、結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によって現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によるものというべきであるから、対価が支払われないことを理由として、妻の家事労働が財産上の利益を生じないということはできない。のみならず、法律上も、妻の家計支出の節減等によって蓄積された財産は、離婚の際の財産分与又は夫の死亡の際の相続によって、妻に還元されるのである。

かように、妻の家事労働は財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも不可能ということはできない。ただ、具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少くないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。」

最高裁は「家事労働についても財産上の利益が発生しているのだが、夫が妻の家事労働に対してお金を払うことがないという特殊な事情があるから、妻がお金をもらえていないだけである」といっています。

つまり「家事労働の対価が0円なのは、夫が妻に支払っていないから」ということもできるのです。

そして、家事労働を金銭的に評価する場合、それは「女子労働者の平均賃金に相当する金額」とされています。

ちなみに、この女子労働者の平均賃金とは、裁判実務上は、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の全年齢平均賃金を指すとされています。

その金額は、

平成25年 3,539,300円(1日あたり9,696円)

平成26年 3,641,200円(1日あたり9,975円)

平成27年 3,727,100円(1日あたり10,211円)

です。

家事労働の対価に関する算出方法についてはいろいろな考え方があるようですが、この最高裁判例や裁判実務を踏まえると、夫は妻に対して、家事労働の対価として毎日10,000円を支払わなければならないと考えることもできるわけです。

ただ、この点については、最高裁がいうとおり、家事労働は夫婦の相互扶助義務の履行としてなされていることであるという側面は否定できません。

また、夫が妻に対して、毎日10,000円を支払うというのも現実的ではありません。

したがって、夫は妻に対して、毎日10,000円に相当する家事労働を無償で行っていることに対しての感謝の気持ちを忘れないことが大事だと思います。

そして、妻も夫に対して「私だけが家事をやっているのは不公平だ」などというのではなく、夫が会社勤めや自営業による肉体的な疲労や苦労、同僚や上司・部下、取引先等の人間関係に対する精神的なストレスなどを受けながら収入を得ているからこそ生活できているのだという感謝の気持ちはやはり忘れてほしくないと思います。

共働きなのであれば、夫婦のいずれかに家事を押し付けるのではなく家事も共働きとして分担するべきでしょうし、夫婦の一方のみが家事も担っているのであれば、他方はやはり感謝の気持ちを忘れないことが大事なのだと思います。

そうした夫婦それぞれが相手に対しての感謝の気持ちを持ち合うことが、円満な夫婦生活を送る上で最も重要なことだといえるでしょう。

日本では11月23日が「勤労感謝の日」とされています。

この勤労には家事労働も当然含まれています。

しかし、この日だけが本当の意味での勤労感謝の日ではありません。

毎日がお互いに対しての勤労感謝の日であれば、冒頭のような主張がなされることはなくなるのではないかと思います。

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