遺留分減殺請求に対する価額弁償とは何か

遺贈につき遺留分権利者が減殺請求権を行使すると、遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し、受遺者が取得した権利はその限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属します。

この物権的に戻った権利は、遺産分割を予定しない共有持分であり、共有状態を解消するためには共有物分割手続によることになります。

しかし、例えば遺留分減殺の対象となる遺贈が遺留分義務者の事業にとって必要不可欠な財産を対象にしたものであるとすると、遺留分義務者にとっては不測の事態を招くことになります。

そこで、遺留分義務者は、遺留分権利者に対して現物を返還するのではなく、価額を弁償することが認められています。

これを価額弁償といいます(民法1041条)。

価額弁償の要件

受遺者は、単に価額の弁償をなすべき旨の意思表示をしただけでは足りず、価額の弁償を現実に履行するか、あるいは、価額弁償のための履行の提供をして、初めて現物返還義務を免れます。

これに対して、受遺者が価額弁償の意思表示をしただけの場合、遺留分権利者は、遺留分減殺に基づく現物返還請求権も行使できますし、それに代わる価額弁償請求権も行使できます。

一部の財産についてのみ価額弁償することも可能

遺留分減殺請求権は、対象となる財産ごとに観念されます。

上の図の例で、被相続人(本人)は子1に対して全財産を遺贈する旨の遺言をしていたとします。

被相続人の死亡時における相続財産が4000万円の不動産と2000万円の株式であり、遺留分権利者である子2の遺留分が8分の1(遺留分額750万円)であったとします。

この場合、子2の遺留分減殺請求により、観念的には不動産について共有持分が8分の1(金額にして500万円)となるほか、株式についても8分の1(金額にして250万円)が減殺の対象となります。

この場合、子1は、不動産については子1と子2の共有(持分8分の7と8分の1)とするのに対し、株式については価額弁償とすることができます。

価額弁償がなされるときの目的物の価額算定の基準時

弁償すべき価額の算定時は現実に弁償がなされる時です。

訴訟のときは事実審の口頭弁論終結の時です。

最高裁昭和51年8月30日判決

遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当であつて(最高裁昭和三三年(オ)第五〇二号同三五年七月一九日第三小法廷判決・民集一四巻九号一七七九頁、最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和四二年(オ)第一四六五号同四四年一月二八日第三小法廷判決・裁判集民事九四号一五頁参照)、侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものであるが、民法一〇四一条一項が、目的物の価額を弁償することによつて目的物返還義務を免れうるとして、目的物を返還するか、価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねたのは、価額の弁償を認めても遺留分権利者の生活保障上支障をきたすことにはならず、一方これを認めることによつて、被相続人の意思を尊重しつつ、すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者又は受遺者と遺留分権利者との利益の調和をもはかることができるとの理由に基づくものと解されるが、それ以上に、受贈者又は受遺者に経済的な利益を与えることを目的とするものと解すべき理由はないから、遺留分権利者の叙上の地位を考慮するときは、価額弁償は目的物の返還に代わるものとしてこれと等価であるべきことが当然に前提とされているものと解されるのである。このようなところからすると、価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあつては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である。

価額弁償請求にかかる遅延損害金の起算日

民法1041条1項に基づく価額弁償請求にかかる遅延損害金の起算日は、遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し、かつ、受遺者に対し弁償金の支払いを請求した翌日です。

最高裁平成20年1月24日判決

受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け、遺贈の目的の価額について履行の提供をした場合には、当該受遺者は目的物の返還義務を免れ、他方、当該遺留分権利者は、受遺者に対し、弁償すべき価額に相当する金銭の支払を求める権利を取得すると解される(前掲最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決、前掲最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決参照)。また、上記受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても、遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには、遺留分権利者は、受遺者に対し、遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし、それに代わる価額弁償請求権を行使することもできると解される(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁、前掲最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決参照)。そして、上記遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には、当該遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当である。したがって、受遺者は、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした時点で、遺留分権利者に対し、適正な遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うというべきであり、同価額が最終的には裁判所によって事実審口頭弁論終結時を基準として定められることになっても(前掲最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決参照)、同義務の発生時点が事実審口頭弁論終結時となるものではない。そうすると、民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は、上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し、かつ、受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる。

 

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