会社のオーナー兼社長が遺言書を作成する際に注意すべきこと

私が遺言書を作成するべきであると考えるケースの1つが会社のオーナー兼社長です。

日本の企業の大多数は中小企業です。

しかも、中小企業の代表取締役が会社の全株式を保有する一人株主でもあるというケースは非常に多いといえます。

そのような会社のオーナー兼社長が会社の経営を相続人に継がせたいと考えること自体は、不思議なことではありません。

しかし、そのための対策を生前にやっておかなければ、あなたの死後、会社の後継者争いが勃発することになります。

このようなことが起きないように、弁護士は「遺言書を作成しておくように」とアドバイスすることでしょう。

例えば、「全財産を長男〇〇に相続させる」という遺言書を作成しておけば、会社の株式を含めて全財産を長男が相続することになるため、会社の後継者争いを避けることができると説明するでしょう。

この説明自体は間違ってはいません。

しかし、「全財産を〇〇に相続させる」という遺言書を作成しただけでは、問題の解決にはならない場合もあります。

むしろ、問題がより複雑化してしまうだけでなく、感情的なしこりが大きく残ることにもなりかねません。

今回は、会社のオーナー兼社長が遺言書を作成する際に注意するべきことについて、特に「全財産を〇〇に相続させる」という遺言書を作成することによるデメリットを踏まえて、解説してみたいと思います。

なぜ遺言書を作成した方が良いのか

まず、大多数の弁護士がアドバイスすると思われる遺言書の作成について説明したいと思います。

相続財産とは何かということを考える場合、一般的には、不動産・預金・現金などの財産を思い浮かべるのではないでしょうか。

これらの財産については身近なものであるため、相続財産に含まれるということは当然想定しています。

しかし、忘れがちであるのが、株式です。

同じ株式であったとしても、それが投機目的で保有しているものであれば、財産として認識していることでしょう。

これに対し、自らの経営する会社の株式という場合には、あまり財産としての認識はないかもしれません。

自社の株式も相続財産の1つなのです。

株主の構成や割合が決まるまでには時間がかかる

株式は、法定相続分の割合に従って当然に承継するのではなく、法定相続人による共有状態になります。

例えば、オーナー兼社長には妻と子供2人(長男・長女)がいるとして、全株式1000株を保有していたとします。

このオーナー兼社長が死亡した場合、株式は、法定相続分に従って、妻500株・長男250株・長女250株となるわけではありません。

実は、このような場合には、妻と長男・長女が1000株を共有していることになるのです。

この共有状態を解消するためには、遺産分割の協議が必要になります。

もし協議が整わなければ、家庭裁判所において遺産分割の調停を行わなければならなくなります。

それでもなお調停が成立しない場合には、家庭裁判所による審判により解決を図ることになります。

特に、会社経営の実権を握るためには株式の保有割合が大きく影響するわけですから、単なる遺産分割協議という枠を超えて、会社の経営権の争いにまで発展することになります。

したがって、遺産分割協議や調停が紛糾することは必至で、解決までに長期間を要することも少なくありません。

この間、株主となるのは誰なのか、保有する株式の数や割合はどうなるのかが決まっていません。

このことは、株主総会を開催することができないということを意味します。

つまり、遺産分割が解決するまでは株主総会を開催することができず、会社の重要事項を決定することができないということになるのです。

取締役がいないため会社の経営ができなくなる

また、会社の取締役に欠員が出た場合には新たに取締役を選任しなければなりませんが、取締役は株主総会により選任する必要があります。

もし取締役がオーナー兼社長のみであったとすると、死亡後は会社の取締役がいない状態になります。

つまり、会社の経営者がいないことになるわけですから、会社の経営はストップしてしまいます。

遺産分割により株主の構成や保有割合が決まり、そのうえで株主総会を開催して取締役を選任することになるわけですが、この局面でも会社の経営権をめぐって争いになることがあります。

取締役の選任までに長期間を要してしまい、その間は会社の経営もストップしているわけですから、取引先が撤退したり、信用を失ったりした結果、廃業という事態も発生してしまいかねないのです。

だからこそ遺言書が必要になる

このような事態の発生を回避して、後継者にスムーズに会社の経営を継がせるためには、会社のオーナー兼社長は自らの保有する株式を誰に相続させるのかについて遺言書を作成しておき、自らの死亡後、直ちに株主総会を開催して取締役を選任できるような体制を整えておく必要があるのです。

法定相続人が他にもいる場合には遺留分が問題となる

このように、会社のオーナー兼社長が遺言書を作成しておくことにより、後継者争いを未然に防ぐことができます。

しかし、遺言書の内容によっては、問題の解決としては不十分な場合があります。

それは、後継者以外に法定相続人が存在し、遺言書の内容がその法定相続人の遺留分を侵害している場合です。

例えば、上記の例で、会社のオーナー兼社長が保有する全株式1000株を含め、全財産を長男に相続させる旨の遺言書を作成していたとします。

しかし、このような遺言の場合には、妻と長女の遺留分を侵害しています。

もし長女が遺留分の減殺を請求した場合、長女は全株式1000株のうちの8分の1に相当する125株を承継することになります。

つまり、会社の株式が分散することになるわけです。

そうなると、会社が株主総会を招集する場合には、必ず所定の手続を採らなければならなくなります。

もし全株式を長男が保有したいということであれば、長女に対して価額弁償を行うということも考えられますが、株式の評価額が大きい場合には価額弁償の金額も高額になるため、現実的に不可能であるということも予想されます。

さらに、長女による遺留分減殺請求を解決するためには、場合によっては調停や民事訴訟による解決も必要になってきます。

このように、会社のオーナー兼社長が遺言書を作成しておいたとしても、その内容次第では、将来的な会社の経営に支障をきたすこともありうるのです。

スムーズな事業承継のためには遺留分を考慮した遺言書を作成するべき

このように、会社のオーナー兼社長が後継者に会社の経営を継がせるためには遺言書を作成しておけばよいというのでは不十分であり、他の法定相続人による遺留分減殺請求を意識した対策を採っておく必要があります。

この点について、遺留分の放棄や中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)における遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)などにより、会社のオーナー兼社長が生存中に対策を採ることもできます。

しかし、これらの制度はいずれも後継者にはならない他の法定相続人の同意が必要であるため、同意が得られない場合には実現はできません。

そこで、遺言書を作成するにあたっては、他の法定相続人の遺留分を考慮した遺言書の内容を検討し、作成する必要があるのです。

では、具体的にはどのような方法が考えられるでしょうか。

遺留分に相当する財産を他の法定相続人にも相続させる

後継者に会社の経営を継がせるにあたって、会社のオーナー兼社長としては、全財産を後継者に相続させたいという希望もあるでしょう。

しかし、この場合には他の法定相続人の遺留分を侵害してしまいます。

そこで、会社のオーナー兼社長の全財産をあらかじめ評価して他の法定相続人の遺留分がどのくらいの金額となるのかを算出しておき、その金額に見合う財産を他の法定相続人にも相続させる旨の遺言書を作成しておくことが考えられます。

例えば、会社のオーナー兼社長には妻と長男・長女の2人の子供がいたとして、その全財産が8000万円存在していたとします。

この場合、長女の遺留分は法定相続分4分の1×2分の1=8分の1となります。

そこで、会社のオーナー兼社長が長男に会社を継がせようと考えた場合、長女には8000万円×8分の1=1000万円に相当する財産(例えば預金・現金など)を相続させ、長男には会社の全株式を含めた他の財産を相続させる旨の遺言書を作成することが考えられます。

もっとも、この場合、遺言書を作成した時期と相続開始時(つまり会社のオーナー兼社長の死亡時)における相続財産の内容や評価額に変化が生じていることがあり、場合によっては長女が遺留分に見合う財産の相続できていない事態が発生することもあります。

したがって、やはり長女による遺留分減殺請求が問題となることもありえます。

遺留分減殺をする財産を指定する

そこで、遺言で遺留分対策をするうえで最も有効だと考えられるのが、遺留分減殺をする財産を指定することです。

(遺贈の減殺の割合)

民法第1034条

遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

遺留分減殺請求というのは、原則として「価額の割合に応じて減殺する」とされています。

具体的にいうと、相続財産の中には預貯金・不動産・株式などの種類があります。

「価額の割合に応じて減殺」とは、上記の例でいうと、長女が遺留分減殺請求を行った場合には、「預貯金の8分の1」「不動産の8分の1」「株式の8分の1」というように、各財産からそれぞれ減殺することになります。

ただし、民法第1034条但書では「別段の意思を表示したときは、その意思に従う」と規定されています。

これは、遺言者が遺留分権利者に対して、遺留分減殺請求をする場合の財産を指定することができるということを指しています。

先ほどの例で、例えば、会社のオーナー兼社長が「全財産を長男に相続させる」との遺言書を作成した場合に、「長女が遺留分減殺請求を行う場合には、まず預貯金から減殺するものとする」というように指定することができます。

このような指定をすることによって、仮に長女が遺留分減殺請求を行ったとしても、長男が会社の全株式を相続することができるため、会社の経営をスムーズに継ぐことができるわけです。

最後に

このように、会社のオーナー兼社長が後継者にスムーズに会社を継がせたいという願望と、他の法定相続人による遺留分の保障というバランスをとるためには、遺言により全財産を後継者に相続させる旨の遺言を作成した上で、他の法定相続人による遺留分減殺請求にそなえて財産を指定しておくという方法は、非常に有効な方法であるといえます。

しかし、実際には、遺言書を作成していなかったり、遺言書は作成しているものの遺留分対策がとられていなかったりするために、会社のオーナー兼社長が亡くなった後、後継者と他の法定相続人との間で遺産相続の争いになってしまうケースが後を絶ちません。

その間、会社の経営はストップしてしまいます。

会社を設立して懸命に働き、築きあげた経営基盤や信用を後継者に継がせたいと思っていたにもかかわらず、遺産相続争いにより会社が廃業してしまうという事態に発展してしまうというのは、余りに残念でなりません。

この記事を読んでいただいた会社のオーナー兼社長には、ぜひ遺言書の作成を検討していただきたいと思います。

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