遺言書の概要について

遺言とは、個人の最終意思が一定の方式のもとで表示されたものです。

法律上、遺言者の死亡後に、既に権利主体でなくなった遺言者の一方的な意思表示のみでその効果意思どおりの効力を発生させるものです。

遺言は、私的自治の原則を権利主体が死亡した後まで拡張するという意味を有し、自らの私的生活関係について、権利主体が死後の状況についてまで自己決定できることにその意義があります。

方式主義

要式行為としての遺言

遺言は、表意者が死亡してはじめて効力が生じますが、死亡時点では表意者が存在しません。

そこで、生前に行われた表意者の意思表示が真意に出たものであることを確証できるために、遺言の成立要件は厳格でなければならず、遺言による意思表示には、成立要件として一定の方式が要求されています。

遺言の解釈

遺言者の最終意思の尊重

遺言の解釈においては、遺言の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求し、その真意に沿った内容で遺言をできるだけ有効にするように解釈します。

方式不備の遺言の扱い

遺言の方式に軽微な瑕疵がある場合、遺言をできるだけ無効としない方向での解釈も許されますが、遺言者の意思の補充には慎重を期す必要があります。

共同遺言の禁止

民法は、同一の遺言証書で2人以上の者が遺言をするのを禁止しています(民法975条)。

遺言事項の限定

民法は、遺言の明確性を確保するとともに、後日の紛争を予防するため、遺言で決めることができる事項を限定しています。

  1. 身分関係に関する事項(認知、未成年後見人の指定など)
  2. 相続の法定原則の修正(相続人の廃除、相続分の指定、分割方法の指定、特別受益の持戻し免除など)
  3. 遺産の処分に関する事項(遺贈、相続させる遺言、遺言信託など)
  4. 遺言の執行に関する事項(遺言執行者の指定など)
  5. その他(祭祀主宰者の指定、生命保険金受取人の指定・変更など)

遺言能力

意義

遺言をするには、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力(内心の意思を有効に表示する能力)があればよく、民法はその基準を満15歳としています(民法961条)。

遺言は財産行為ではなく身分行為であり、取引上の行為能力(財産上の有利不利を理解する能力)よりも低い程度の能力で足りるため、民法総則の制限行為能力に関する規定は、遺言には適用されません(民法962条)。

意思能力がない者の遺言

意思能力のない者の意思表示は無効ですので、この者がした遺言は無効です。

具体的基準として、裁判例は、通常人としての正常な判断力・理解力・表現力を備え、遺言内容について十分な理解力を有していた場合には、遺言能力としての意思能力に何ら欠けるところはないと判示しています。

成年後見における「事理弁識能力」との関係

意思無能力かどうかは、問題となる個々の法律行為ごとにその難易、重大性なども考慮して、行為の結果を正しく認識できていたかどうかということを中心に判断されるべきものです。

一般的に、本人または取引の相手方の権利を保護する等の目的で本人の行為能力を制限する成年後見制度の基準となる「事理弁識能力を欠く常況」とは異なります。

したがって、成年被後見人でも、一定の条件のもとに遺言をなし得る場合があります。

意思能力等の判定基準

能力評価では、一般に、見当識(時間や場所など今自分がおかれている現実をきちんと把握すること)、記憶力、認知能力、知能の4要素をもとに判定します。

遺言は、最終意思であることを考慮すると、遺言の内容と効果を一応なりとも理解して、その実現を欲するのに最小限必要な精神能力を有していれば十分であると思われます。

成年被後見人の遺言についての特則

成年被後見人が遺言をするためには、遺言者の真意を確保するために、被後見人が事理弁識能力を一時回復しているときにおいて遺言をするには、医師2人以上の立会いのもとに行わなければなりません(民法973条)。

また、成年被後見人や、後見に付されている未成年者が後見人の影響を受けやすいことを考慮し、かつ、後見人の不正行為を一般的に防止するため、後見の計算の終了する前に、後見人またはその配偶者もしくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は無効とされます(民法966条1項)。

遺言能力の証明責任

遺言の存在を主張する側が遺言能力の存在も証明すべきであるとされています。

遺言の無効・取消し

民法総則上の無効・取消し

民法総則の定める無効・取消事由は、意思無能力による無効と公序良俗違反による無効を除き、遺言中の身分上の事項には適用されず、財産上の事項にのみ適用されます。

方式・要件による無効

その他、遺言能力が欠如する者のした遺言、方式違反の遺言、後見人側に利益となる遺言は無効です。

遺言の効力発生時期

遺言は、遺言者の死亡の時から、その効力を生じます(民法985条1項)。

ある遺言事項(遺言全体)について停止条件が付けられていた場合には、その遺言事由(遺言全体)は、条件成就の時から、その効力を生じます(民法985条2項)。

また、遺言の効力が発生するために一定の手続が必要とされる場合があり、例えば、遺言による相続人の廃除や廃除の取り消しは、家庭裁判所の審判があるまでは効力を生じません。

審判があったときにその効力が遺言者死亡の時点までさかのぼるにとどまります(民法893条・894条2項)。

遺言の撤回

遺言撤回の自由

遺言者は、その生存中は、いつでも、何度でも遺言を撤回できます(民法1022条)。

遺言を撤回するときには、「遺言の方式に従って」行わなければなりません(民法1022条)。

撤回擬制

遺言が撤回されたものと評価される場合(撤回擬制)は、次のとおりです。

  1. 前後の遺言が内容的に抵触する場合(抵触遺言、民法1023条1項)
  2. 遺言の内容と、その生前処分とが抵触する場合(民法1023条2項)
  3. 遺言者が故意に遺言書または遺贈目的物を破棄した場合(民法1024条)

遺言を撤回する遺言を更に別の遺言をもって撤回した場合

いったん行われた遺言(甲遺言)が後の遺言(乙遺言)により撤回されたときは、乙遺言が後の別の遺言(丙遺言)で撤回されたときや、乙遺言の効力が生じなくなったとき(受遺者が先に死亡した場合)でも、甲遺言は原則として復活することはありません(民法1025条本文)。

遺言者が甲遺言を復活させる意思を持っていたかどうかが遺言者死亡後に問題となったときにこれを確認することが困難であるし、遺言者が甲遺言を復活させたかったならば、甲遺言と同一内容の遺言をあらためて作成することができたはずだからです。

ただし、遺言者が遺言を撤回する遺言を更に別の遺言をもって撤回した場合において、遺言者の記載に照らし、遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、当初の遺言の効力が復活します。

死因贈与の撤回

民法1022条と1023条は、遺言撤回の「方式に関する部分を除いて」死因贈与に準用されます。

したがって、死因贈与をした者は、民法550条の規定に関係なく、「いつでも」死因贈与の全部または一部を撤回できます。

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