尿鑑定による覚せい剤成分の検出について

今年は元スポーツ選手や芸能人による薬物犯罪のニュースが多く報道されました。

その中で、「尿鑑定の結果、覚せい剤の成分が検出されました。」と報道されるのを耳にする機会が多いと思います。

覚せい剤の使用に関しては、一般的には被疑者の尿を鑑定し、その中に覚せい剤の成分が含まれていれば、一定期間内に覚せい剤を摂取したことがわかるとされています。

そのため、覚せい剤の使用が疑われる場合には、必ず尿の鑑定が行われています。

もっとも、覚せい剤使用の罪は故意犯であるとされています。

故意犯とは、簡単にいうと、自分の意思で罪を犯したケースをいいます。

覚せい剤使用の罪が故意犯であるというのは、自分の意思で覚せい剤を使用したケースということになります。

逆にいうと、自分の意思ではなく、うっかり体内に入ってしまったという過失犯の場合には犯罪は不成立となります。

被告人が故意に覚せい剤を使用したということは、刑事裁判の原則からすると、本来は検察官が立証する必要があります。

しかし、尿鑑定の結果、覚せい剤の成分が検出されたことにより一定期間内に覚せい剤を摂取したことがわかったにもかかわらず、それが故意に摂取したのか、うっかり体内に入ってしまったのかを明確にすることはかなり難しい問題です。

通常、覚せい剤の使用は一人で隠れて行われていることが多いため目撃者が存在することはほとんどありませんし、複数で使用していた場合でも共犯者ですので口裏を合わせることは容易です。

したがって、検察側の証人となれる人はほぼいないといえるでしょう。

そうすると、被告人が「自分の意思で覚せい剤を使用したのではない」という弁解をすると、検察側において、被告人が覚せい剤を故意に使用した事実を立証できなければ無罪ということになってしまいます。

しかし、このようなことが許されるようであれば、ほぼすべてのケースで、覚せい剤使用の罪を犯した者を処罰できなくなってしまいます。

この点について参考になるのが、東京高等裁判所平成19年2月28日判決です。

「覚せい剤は、法律上その取扱いが厳格に制限され、取扱資格者でない者は、その使用、所持及び譲渡が禁止され、その違反に対しては厳罰をもって取締りがなされている薬物であるため、一般の日常生活において、それが覚せい剤であると知らないうちに誤って体内に摂取されるというようなことは通常ではあり得ないことである。

したがって、被告人の尿中から覚せい剤が検出された場合には、他人が強制的に、あるいは被告人不知の間に、覚せい剤を被告人の体内に摂取させたなどの被告人が覚せい剤を使用したとはいえない特段の事情が存在しない限り、経験則上、被告人の尿中から覚せい剤が検出されたということのみで、被告人が、自らの意思に基づいて覚せい剤をそれと認識した上で摂取したものと推認するのが相当である。

 

この裁判例のように、実務では、尿検査の結果、体内から覚せい剤の成分が検出された者については、その使用に関する故意が事実上推定されています。

その結果、被告人や弁護人側が「他人が強制的に、あるいは被告人不知の間に、覚せい剤を被告人の体内に摂取させたなどの被告人が覚せい剤を使用したとはいえない特段の事情」を主張し立証する必要があります。

これはこれで非常に難しい問題であり、立証は困難を極めるといえるでしょう。

しかし、実際にこの立証が認められ、覚せい剤使用の罪で起訴された被告人の故意を否定し、無罪となったケースがあります。

それは、東京地方裁判所平成24年4月26日判決です。

この事案は、被告人と共に職務質問を受けた妻が任意に提出した尿の簡易鑑定の結果、覚せい剤の陽性反応が出たとして先に緊急逮捕されていました。

一方、被告人については簡易鑑定の結果は偽陽性であったものの、本鑑定で陽性反応が出た後に逮捕されたというものでした。

なぜこのようなことが起こってしまったかというと、実は、夫婦でホテルに滞在中に、妻が夜間に外出して覚せい剤を購入して使用し、残りの覚せい剤をホテルに持ち帰り、後で飲むつもりで缶入り飲料に混入していたところ、そのまま寝入ってしまったのですが、その覚せい剤入りの飲料を夫である被告人が飲んでしまった、ということだったのです。

弁護人の立証活動により、裁判所は特段の事情があるものとして、被告人に無罪を言い渡しました。

 

もっとも、このようなケースは非常にまれであると考えられます。

もし裁判所が特段の事情はないと判断していれば、この被告人は有罪となっており、ひょっとすれば執行猶予がつかずに実刑判決を受けていたかもしれません。

覚せい剤には手を出さない、近づかないということが、自分自身だけの問題ではなく、家族にも迷惑をかけなくてすむということをご理解いただければと思います。

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