実印と認印の法律上の違いー「二段の推定」とは何か

日常生活において印鑑を使用する場面というのは多いのではないでしょうか。

一口に印鑑といっても、実印、認印、銀行印などがあります。

では、「この書類に印鑑を押してください。」といわれたときに、実印を押すのかそれとも認印でもよいのかと迷われたことはないでしょうか。

また、「なぜ書類には実印を押す必要があるものと認印でよいものがあるのだろうか。」と疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、今回は、実印と認印の法律上の違いについて説明してみたいと思います。

実印とは何か

そもそも実印とは何かということについて、実はよくご存知でないという方もいらっしゃいます。

実印とは、住民登録をしている地方自治体に印鑑登録したものをいいます。

たまに、実印とは素材がしっかりしていて大きくて立派な印鑑をいうものと誤解されているかたもいらっしゃいますが、はんこ屋さんで低価で販売している印鑑であっても、それを住民登録している地方自治体に印鑑登録すれば、その印鑑が実印となります(ただし、各地方自治体によって印鑑登録ができる印鑑の規格が定められていますので、注意が必要です)。

逆に、印鑑登録をしていない印鑑は認印であるということになります。

文書の真正に関する立証方法と立証責任

では、実印と認印とでは、法律上、何が違ってくるでしょうか。

それは、「文書が真正に作成されたものであるか否か」、簡単にいうと、文書が偽造されたものではないといえるか否かに関しての証明力の違いです。

この点について説明するにあたっては、文書の真正に関する立証責任が誰にあるのかを理解していただく必要があります。

文書の真正に関する立証責任

民事訴訟においては、例えば契約書であったり、委任状であったり、念書であったりなど、さまざまな文書が証拠として提出されます(証拠が文書である場合には「書証」といいます。)。

書証については、作成した者が「たしかにその文書は私が作成したものに間違いありません。」ということであれば問題はないのですが、ときとして「その文書には〇〇の氏名と印鑑が押されているが、それは〇〇が作成したものではない」と、その書証は偽造されたものであると争うことがあります。

このような場合には、文書が偽造されたものではないこと、つまり「文書の真正」を立証する必要があります。

そして、その立証責任は、文書が真正に作成されたものであると主張する側が負うことになります。

公文書の場合

国または地方公共団体の機関、あるいは公務員がその職務上作成した文書を公文書といいます。

公文書については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定するとされています(民事訴訟法228条第2項)。

また、公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができるとされています(同条第3項)。

これにより、公文書に関しては、公文書の成立の真正を立証することが容易なので、文書の成立の真正が争われることはほとんどありません。

私文書の場合

公文書以外の文書はすべて私文書です。

私文書については本人又はその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定するとされています(同条第4項)。

この文言だけを見ると、私文書に署名または押印がある場合にはすべて真正に成立したと考えてしまうかもしれませんが、それだと文書が偽造された場合であっても、署名または押印があれば真正に成立したものと推定されてしまい、不合理です。

したがって、私文書における本人の署名または押印についてはいずれも「本人の意思に基づくものであること」が前提となります。

つまり、私文書に本人の署名または押印があったからといって文書が真正に作成されたものとはいえず、あくまでも本人の意思に基づいて署名または押印がなされたものでなければ真正に作成されたものとはいえないということになります。

もっとも、この「本人の意思に基づくもの」という要件を立証することは著しく困難です。

文書を作成したときに立ち会っていなければどのような経緯でその文書が作成されたのかわかりませんし、もし立ち会っていたとしても本人の意思で作成されたものであるということを後になって覆されてしまった場合には、「本人の意思に基づくもの」ということを立証する手段がありません。

もっとも、この点について、最高裁昭和39年5月12日判決では、「文書中の印影が本人または代理人の印章によって顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当である」と判断されています。

この最高裁判例と民事訴訟法228条第4項の規定を整理すると、

  1. 最高裁判決により、私文書に本人の印鑑による押印があるときは、本人の意思に基づき押印されたものであると事実上推定され(1段目の推定)、
  2. 民事訴訟法第228条第4項により、私文書に本人の押印があるときは、「押印が本人の意思に基づいているとき」と解釈されて、文書の真正が法律上推定される(2段目の推定)

ということになります。

このような推定を「二段の推定」といいます。

この二段の推定が働くことから、私文書の真正については「文書中の印影が本人の印鑑であること」を立証すれば足りることになります。

これに対して、私文書が偽造されたものであると主張する側は、この二段の推定を覆す事実について立証しなければなりません。

具体的には、1段目の推定を覆すためには

  • 印鑑を他の者と共用していた
  • 印鑑の紛失、盗難、盗用があった
  • 別の目的で預けた印鑑が悪用された場合

などの事実を主張・立証する必要があります。

また、2段目の推定を覆すためには

  • 白紙に署名(または押印)したものを他人が悪用して文書を完成させた
  • 文書作成後に変造がされた
  • 他の書類と思い込ませて署名(または押印)させた

などの事実を主張・立証する必要があります。

これらの事実を主張・立証できない限り、私文書は真正に作成されたものとして取り扱われることになります。

実印と認印での決定的な違い

このように、私文書が真正に作成されたものであることを立証しようと思えば、印影が本人の印鑑によるものであることを証明すればよいことになります。

では、本人の印鑑であるということをどのように証明すればよいでしょうか。

ここで、実印であることの意味が出てきます。

実印とは、最初にも言ったように、「住民登録をしている地方自治体に印鑑登録したもの」です。

そして、地方自治体では、印鑑登録した実印であることを証明する「印鑑登録証明書」を発行します。

つまり、実印が本人の印鑑であることを地方自治体が証明してくれるわけです。

これに対して、認印であっても二段の推定は働きます。

しかし、認印が本人の印鑑であることについては、本人以外には証明できません。

しかも、その本人が「押印されている認印は私の印鑑ではない」と言われてしまうと、それ以外の方法で認印が本人の印鑑であるということを証明しなければなりません。

そこで、同時期に本人が作成されたとされる文書を見つけ出し、そこに押印されている認印と同じ印鑑が押印されているということを証明したとしましょう。

しかし、この場合でも、対象となる文書そのものが本人により作成されたものであるということを証明しなければなりません。

このように、認印であっても二段の推定は働くものの、「本人の印鑑である」ということを立証することは困難なのです。

文書を作成する場合にはできるだけ実印を押印させるべき

このように考えると、文書に署名・押印を求める場合には、できる限り実印を押印させるように求めた方が、後にトラブルが発生した場合に「その文書は偽造されたものである」などと主張されたとしても、文書の真正は容易に立証することが可能となります。

そういう意味では、実印を押させるだけでなく、一緒に印鑑登録証明書も提出させておけば、文書の作成当時の実印であることまで立証できますので、仮に後で実印を変更して「この印鑑は実印ではない」などと主張された場合にも対応することができるということになります。

日常生活において、実印を押すということは非常に限られたケースでしかないと思われますが、そのような場合に一緒に印鑑登録証明書の提出も求められるのは、このような理由によるものだと理解していただければと思います。

実印の悪用を防止するための方法

逆に、実印を悪用されて文書が作成されてしまっていた場合には、二段の推定を覆す事実についての主張・立証が求められます。

しかし、この主張・立証は非常に困難であり、立証できなかった場合には文書の真正が裁判所により認められてしまいます。

このような事態に陥らないようにするためには、実印の保管は非常に重要であるといえます。

ただ、どんなに厳重に保管していたとしても、実印を勝手に持ち出されたり、盗まれてしまったりして悪用されてしまうおそれは捨てきれません。

そこで、最も簡単な方法をお教えします。

それは、「実印を実印ではなくしてしまう」という方法です。

つまり、印鑑登録の廃止を申請するということです。

先ほども述べましたが、日常生活において実印を押す機会というのはめったにありません。

むしろ、日常生活では認印しか使わないといっても過言ではないでしょう。

そういう意味では、実印というのは必ず所持していなければならないわけではありません。

そこで、実印が必要になったときには、住民登録をしている地方自治体において印鑑登録を行い、印鑑登録証明書を発行してもらったうえで、実印を押して印鑑登録証明書を提出します。

その後、実印が必要なくなった時点で、印鑑登録をしている地方自治体で印鑑登録の廃止を申請すればよいのです。

このようにすれば、実印が実印である時間というのは非常に短期間であるということになり、それ以外の日時についてはすべて認印ということになるわけです。

最後に

このように実印には強い証明力があります。

それぞれの立場から、実印の保管や使用について考えるきっかけになればと思います。

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“実印と認印の法律上の違いー「二段の推定」とは何か” への2件の返信

  1. ちなみに、国会図書館ではある書類を作成するのに認印を要求しますが、認印を所持していない場合は拇印を取られます。明らかな人権侵害であると思うのですが、彼らにとってシャチハタ等の認印であっても目の前で押印すれば、最高裁で言うところの本人の印鑑のようです。

    1. コメントありがとうございます。
      拇印を取られる=人権侵害と考える方は多いと思いますが、必ずしもそのようにはいいきれないというのが実情です。
      裁判所でも、証人に宣誓書への署名・押印を求める場合に、証人が印鑑(認印)を持参していない場合には拇印を押してもらっています。
      また、シャチハタについてですが、裁判所では認印としては認められていません。
      理由としては様々あると思われますが、シャチハタ=スタンプだと考えていると思われます。

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