民法の法定利率の引き下げは得か?損か?

この投稿は平成29年4月13日に修正しました。

今国会における民法の改正により、法定利率が現在の年5%から年3%に引き下げられようとしています。

どういうことかというと、例えばあなたが他人に100万円を貸したとします。

その際、利息は民法所定の利率によるとした場合、1年後には105万円になるということになります。

もっとも、これが年3%とすると、1年後には103万円にしかならないということになります。

交通事故に関しては重要な法改正

このようにいっても皆様には実感がないことでしょうし、日常生活でもそれほど意識することはないと思います。

しかし、弁護士からみた場合、この民法改正による法定利率の引き下げが大きく影響する場面があります。

それは、交通事故における損害賠償請求の問題です。

交通事故の被害に遭った結果、治療を受けたものの後遺症が残ってしまい、後遺障害の認定を受けることがあります。

このような場合、交通事故の被害者は「逸失利益」を請求することができます。

逸失利益とは、後遺障害の影響で労働能力が低下したことに伴い、将来得ることができたはずの収入や利益を得ることができなくなったとして、それを損害として請求するというものです。

この逸失利益の計算式は「1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」となるのですが、この「ライプニッツ係数」というのが民法改正に影響することになります。

そもそも逸失利益とは、将来発生するであろう損害を現時点で受領することを意味します。

例えば、1年後に100万円の損害が発生するとして、それを今すぐに受領したとしましょう。

受領した人はその100万円を法定利率である年5%で貸したりして運用すれば、1年後には105万円にすることができます。

つまり、1年後にもらえるはずの100万円を今すぐにもらった方が結果的にみて得をするということになります。

他方で、支払わなければならない側からすると、1年後に100万円を支払わなければならないとしても、その1年間に100万円を運用しておけば105万円に増やしておけますし、そこから100万円を支払ったとしても5万円は手元に残すことができたはずです。

それを今すぐ支払わなければならないとすると、支払う側は損をすることになるわけです。

このような不公平を解消するために考えられたのが「中間利息の控除」という方法で、そのために使われる指数が「ライプニッツ係数」と呼ばれるものです。

現在、実務で使われている「ライプニッツ係数」は、実は民法の法定利率である年5%を基礎にして定められています。

具体例を挙げると、例えば、年収500万円であった人が交通事故に遭い、後遺障害等級12級との認定を受けたとします。

この場合の労働能力喪失率は14%です。

仮に10年分の逸失利益を算出するという場合、年5%を基礎にしたライプニッツ係数は「7.722」です。

その結果、逸失利益は500万円×14%×7.722=540万5400円となります。

これに対し、年3%を基礎にしたライプニッツ係数は「8.53」です。

したがって、この場合の逸失利益は500万円×14%×8.53=597万1000円となります。

このように、民法の法定利率が下がるということはライプニッツ係数が上がることを意味しており、その結果、逸失利益の金額が上がることになります。

ここで、「民法の法定利率が下がったとしても、ライプニッツ係数は変更しないのではないか?」と疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

この点については、最高裁の判例があります。

最高裁平成17年6月14日判決

「損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によらなければならないというべきである。」

この最高裁判例により、民法の法定利率が年5%から年3%に引き下げられた場合、逸失利益を算定するためには年3%を基礎にしたライプニッツ係数によらなければ、この最高裁判例に違反することになるのです。

したがって、今回の民法改正により法定利率が下がることになれば、交通事故の被害者保護に資するということになります。

日常生活においてデメリットとなる可能性もある

このようにいったとしても、交通事故の被害に遭わなければ実感はないかもしれません。

そこで、私たちの生活に直結する問題があることも指摘しておこうと思います。

交通事故の被害者の逸失利益の金額が上がるということは、任意保険会社が被害者に対して支払う損害賠償金の金額が高額になるということを意味します。

そうなると、保険会社にとってみれば支出額が増えることになりますから、当然、経営面の問題が出てきます。

その問題を解消するためには、保険会社は、加入者からの保険料の金額を上げざるをえません。

つまり、民法の法定利率が下がるということは、任意保険の保険料が上がる可能性が高いということになります。

このように考えると、民法の改正が実は私たちの日常生活に大きく関わることになるということがご理解いただけると思います。

近い将来、そのような日が来ることは覚悟しておいた方がよいと思います。

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