被相続人に債務がある場合の遺留分侵害額の算定方法

遺留分減殺請求権は遺留分権利者が被相続人から得た財産等を考慮し、現実に遺留分額に満たない時に成立します。

この減殺請求権の具体的額を遺留分侵害額といいます。

【基本的計算式】

遺留分侵害額=遺留分額‐(遺留分権利者が被相続人から相続で取得した財産額‐遺留分権利者が相続によって負担すべき相続債務額)-(遺留分権利者の特別受益額+遺留分権利者が受けた遺贈額)

相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定方法

最高裁平成8年11月26日判決

「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法1029条、1030条、1044条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。」

【具体例】

夫が死亡しました。

夫の相続人は妻・長男・長女です。

夫の遺産は積極財産として6000万円ありますが、債務も3000万円あります。

また、夫は亡くなる半年前に愛人に8000万円を贈与していました。

さらに、夫は亡くなる5年前に長男に対して5000万円を贈与していました。

夫は遺言で妻に4000万円を遺贈しました。

この場合の妻・長男・長女の遺留分侵害額はいくらでしょうか。

まず、遺留分算定の基礎となる財産は

積極財産6000万円+加算されるべき贈与額8000万円+同5000万円-債務額3000万円=1億6000万円

となります。

次に、妻の遺留分侵害額は

  • 遺留分額 1億6000万円×2分の1(総体的遺留分)×2分の1(法定相続分)=4000万円
  • 相続によって得た財産額((積極財産6000万円-遺贈額4000万円)×2分の1)-負担すべき債務額(3000万円×2分の1)+遺贈額4000万円=3500万円
  • 遺留分侵害額 4000万円-3500万円=500万円

となります。

また、長男の遺留分侵害額は

  • 遺留分額 1億6000万円×2分の1(総体的遺留分)×4分の1(法定相続分)=2000万円
  • 相続によって得た財産額((積極財産6000万円-遺贈額4000万円)×4分の1)-負担すべき債務額(3000万円×4分の1)+特別受益額5000万円=4750万円
  • 遺留分侵害額 2000万円-4750万円=-2750万円(遺留分侵害額なし)

となります。

さらに、長女の遺留分侵害額は

  • 遺留分額 長男と同じく2000万円
  • 相続によって得た財産額((6000万円-4000万円)×4分の1)-負担すべき債務額(3000万円×4分の1)=-250万円
  • 遺留分侵害額 2000万円-(-250万円)=2250万円

となります。

相続人のうちの1人に対して財産全部を「相続させる」旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継した場合の遺留分の侵害額の算定

最高裁平成21年3月24日判決

「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。」

【具体例】

父が死亡しました。

父の相続人は長男・長女の2人です。

父の遺産には積極財産として4000万円ありますが、債務も2000万円あります。

父は、すべての財産を長男に相続させる旨の遺言を残していました。

この場合の長女の遺留分の侵害額はいくらでしょうか。

まず、遺留分算定の基礎とすべき財産は

積極財産4000万円-債務額2000万円=2000万円

となります。

長女の遺留分割合は、総体的遺留分2分の1×法定相続分2分の1=4分の1です。

他方、父の債務については法定相続分の割合に従って承継することになるため、長女は2000万円×法定相続分2分の1=1000万円の債務を承継したかのように思われます。

しかし、父が「すべての財産を長男に相続させる」旨の遺言を残している場合、特段の事情がない限り、長男のみが債務の全額を承継します(最高裁判例)。

したがって、長女の遺留分侵害額は2000万円×4分の1=500万円であり、法定相続分に応じた相続債務の額1000万円を加算することは許されない(つまり、遺留分侵害額は1500万円ではない)ということになります。

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