民事裁判における証拠の種類と必要性について

「証拠があるなら出してみろ」「証拠がないけどどうしたらいい?」など、日常生活でも「証拠」という言葉を使っている場面は多々あると思います。

もっとも、この「証拠」とはそもそも何なのかということについて意識したことはあるでしょうか。

また、実際には証拠は必要がないのに「証拠がないから自分の主張は認められないのではないか」と不安になっている方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、今回は民事訴訟における「証拠」とは何かについて解説してみたいと思います。

証拠とは

証拠とは、ある命題の存否や真偽を判断する根拠となるものをいいます。

例えば、「お金を貸した」という事実が存在するのかどうかを判断する際には「借用書」が証拠になります。

また、「相手の車が飛び出してきたから交通事故が発生した」という被害者の主張の真偽を判断する際には「目撃証人」などが証拠になります。

民事訴訟における「証拠」の意味

この「証拠」という言葉には、民事訴訟の場面では3つの意味で用いられています。

証拠方法

証拠方法とは、端的にいうと「物」です。

例えば、民事訴訟で証拠調べの対象となる人や物そのものをいいます。

冒頭でいった「証拠があるなら出してみろ」という場合の「証拠」とはこの証拠方法を指しているといえます。

証拠資料

証拠資料とは、事実を認識するための資料です。

例えば、民事訴訟で契約書という物を証拠方法として提出した場合、その契約書に記載されている内容が証拠資料です。

証拠原因

証拠原因とは、証拠資料のうち裁判官が心証形成に採用したものをいいます。

例えば、民事訴訟で当事者が証拠方法として契約書を提出し、そこに記載されている内容を証拠資料とするよう求めた場合に、裁判官が「契約した事実を認めるに足りる証拠はない」と判示することがあります。この場合の「証拠」が証拠原因です。

どのような場合に証拠が必要なのか

では、民事訴訟ではどのような場合に証拠が必要になるでしょうか。

この点について、民事訴訟法では基本的なルールが定められています。

民事訴訟法179条は

裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

と規定しています。

当事者が自白した事実とは、当事者間に争いのない事実という意味です。

例えば、原告がお金を貸したと主張していることに対して、被告が「お金を借りたことは間違いない」と主張している場合、お金の貸し借りについては争いがありません。

したがって、このような場合にはお金を貸したことを証明するための証拠(例えば借用書など)は必要ないということになります。

次に、顕著な事実とは、「公知の事実」と「裁判所に顕著な事実」を指します。

公知の事実とは、歴史的事件や大災害などの通常の知識経験をもった一般人が疑わない程度に知れ渡っている事実をいいます。

裁判所に顕著な事実とは、裁判所が職務を行うにあたって知った事実で、客観的に明白な事実をいいます。

つまり、「当事者間に争いのない事実や顕著な事実(公知の事実・裁判所に顕著な事実)については、そのまま判決の基礎とすることができ、証拠によって立証する必要がない」ということになります。

逆に言うと、民事訴訟で証拠が必要になるのは、「当事者間に争いのある事実」ということになります。

証拠にはどのような種類があるか

民事訴訟法で規定されている証拠には以下のものがあります。

書証

書証とは、裁判所が文書を閲読して、そこに記載された意味内容を収得することをいいます。

この場合、文書が証拠方法であり、文書に書かれている内容が証拠資料となります。

検証

検証とは、裁判官が五官の作用によって、直接に検証物の形状・性質・状態を観察することをいいます。

この場合、検証物が証拠方法であり、その結果として得られた内容つまり「検証の結果」が証拠資料となります。

証人尋問

証人尋問とは、証人を取り調べる証拠調べをいいます。

この場合、証人が証拠方法であり、その証言が証拠資料となります。

当事者尋問(本人尋問)

当事者尋問(本人尋問)とは、当事者(原告・被告)本人を取り調べる証拠調べをいいます。

この場合、当事者本人が証拠方法であり、その供述が証拠資料となります。

鑑定

鑑定とは、裁判所が指定した学識経験者または団体(これらを鑑定人といいます)が行う専門的知識の報告や、その知識を具体的事実に当てはめて得た判断の報告をいいます。

この場合、鑑定人が証拠方法であり、鑑定人による鑑定意見が証拠資料となります。

「証拠がない」はあり得るのか

私が相談を受ける際に、相談者から「貸したお金を返してくれません。貸すときに借用書をもらっていないので、貸したという証拠はありません。証拠がないから裁判をしても負けてしまうのですか?」といわれることがあります。

しかし、このような相談を受けた場合、私は「証拠がないというのはあり得ない」と答えています。

相談者は「お金を貸した」と主張しています。

実際に相談者はお金を貸したという事実があるから、そのように主張しているわけです。

したがって、借用書という書証がなくても、貸した本人が当事者尋問で「お金を貸した」と供述することは証拠になります。

つまり、相談者自身が証拠方法であり、「お金を貸したという供述」が証拠資料なのです。

このように考えると、「証拠がない」という民事裁判はありえないということになるのです。

証拠で最も大事なのは「証拠原因」として認められること

このように、民事訴訟において「証拠がない」ということはあり得ないことになります。

それは原告・被告双方にいえることです。

では、なぜ訴訟では勝ち負けが決まるのでしょうか。

それは「証拠原因」によるといえます。

ここでも、民事訴訟法における原則が存在します。

民事訴訟法247条は

裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

と規定しています。

これを自由心証主義といいます。

自由心証主義には3つの意味があります。

1つ目は、証拠方法の無制限です。

民事訴訟においては、証拠方法に原則として制限はありません。

2つ目は、弁論の全趣旨の斟酌です。

弁論の全趣旨とは、当事者の主張そのものの内容、その主張の態度のほか、訴訟の情勢からすればある主張をし、又はある証拠を申し出るはずなのに、これをしなかったり、時機におくれてしたりしたこと、当初は相手方の主張を争わなかったのに後で争ったこと、裁判所や相手方の問いに対して釈明を避けたことなど、口頭弁論における一切の事情をいいます(大審院昭和3年10月20日判決)。

3つ目は、証拠力の自由評価です。

証拠の証明力の評価を裁判官の自由な判断に委ねることをいいます。

民事訴訟で自分に有利な判断を得るためには、裁判官の自由な心証により自分にとって有利な証拠原因を見出してもらえるような立証活動が必要になります。

そして、原告側であれば「原告の主張する事実は証拠により認められる」と判断されることを、被告側であれば「原告の主張する事実を認めるに足りる証拠はない」と判断されることを目指すことになります。

最後に

以上が民事訴訟における証拠の説明になります。

本人は「証拠がない」と思っていても、また「この書類は関係ない」と思っていても、証拠方法を見つけ出し、どの部分を証拠資料として提出し、裁判官に証拠原因として認めてもらうことで、訴訟で有利な結果を導き出すことができることもよくあります。

「証拠がない」という理由で泣き寝入りすることなく、一度弁護士に相談することをお勧めします。

Pocket
LINEで送る

コメントを投稿