逮捕される?されない?-逮捕の種類と要件について

ニュースなどを見ていると、同じ罪を犯しているのに逮捕されるケースもあれば逮捕されないケースもあります。

「なぜこの人は逮捕されないのか?」と不思議に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、どのような場合に逮捕されることになるのかについて解説してみたいと思います。

逮捕とは

逮捕とは、被疑者の身体を拘束するとともに引き続いて短時間の拘束を継続する強制処分をいいます。

逮捕に関する諸原則

逮捕には次のような諸原則があります。

逮捕前置主義

被疑者の勾留を請求するには同一事実につき被疑者が既に逮捕されていることを要します。

これを逮捕前置主義といいます。

例えば、住居侵入と窃盗の容疑で逮捕した後、犯人が殺人を犯していたことがわかったとします。

この場合、殺人で勾留請求することはできません。

ただし、住居侵入と窃盗に殺人も追加して勾留請求することはできるとされています。

軽微な事案については比較的時間が短い逮捕の間に捜査が完了することを期待し、そうでない事案については逮捕と勾留の2度の司法審査を経るようにすることで、不必要な身柄拘束を防止しようとするのが趣旨です。

事件単位の原則

逮捕状は犯罪事実を基礎に事件単位で発付されるという原則を事件単位の原則といいます。

裁判官が逮捕の必要性を審査できるのは特定の事件に関してですので、逮捕の効力はその逮捕事実についてのみ及ぶとする趣旨です。

例えば、被害者をAとする傷害事件について逮捕された場合、被害者をBとする傷害事件には逮捕の効力は及ばないということを意味します。

一罪一逮捕一勾留の原則

一つの犯罪事実に対する逮捕・勾留は原則として1回に限られるという原則をいいます。

無条件に再逮捕や再勾留を認めれば逮捕や勾留の期間制限を定めた意味がないからです。

例えば、窃盗容疑で逮捕・勾留したものの捜査が終わらなかったという場合に、もう一度同じ窃盗容疑で逮捕・勾留することはできないということを意味します。

通常逮捕

憲法33条は

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

と規定して、逮捕の原則としてあらかじめ司法官憲が発する令状が必要であるとしています。

これを踏まえ、刑事訴訟法199条1項本文は

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。

と規定しています。

この逮捕の原則的手続を定めた刑事訴訟法199条による逮捕を通常逮捕といいます。

逮捕の要件を事前に裁判官に判断させ、その公正な判断により不当な逮捕を防止する趣旨です。

通常逮捕のための要件

通常逮捕の要件には、実質的要件と形式的要件があります。

逮捕の実質的要件1-逮捕の理由(犯罪嫌疑の存在)

被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときでなければなりません(刑事訴訟法199条2項本文)。

この場合の「罪」とは具体的かつ特定の犯罪をいいます。

簡潔にいうと、いつ・どこで・何を・どのように・何をしたということを特定する必要があるという意味です。

また「相当な理由」については「可能性がある」というだけでは足りませんが、「罪を犯したことに間違いない」と確信を持つまでは不要であるとされています。

逮捕の実質的要件2-逮捕の必要性

明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕できません(刑事訴訟法199条2項ただし書)。

例えば、逃亡や罪証隠滅のおそれがある場合には逮捕の必要性がありますが、明らかに逃亡や罪証隠滅のおそれがない場合には逮捕状の請求は却下されます。

「取調べの必要がある」ということについては直ちに逮捕の必要性があるとすることはできません。

逮捕の形式的要件

逮捕の形式的要件として逮捕状の存在が必要です。

逮捕状は裁判官が発付します(刑事訴訟法199条2項)。

通常逮捕での逮捕状の請求権者は「検察官又は司法警察員」に限られます(刑事訴訟法199条2項)。

「司法警察員」とは「国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者」です(刑事訴訟法199条2項)。

逮捕状を請求するには、逮捕の理由及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければなりません(刑事訴訟規則143条)。

ただし、法定刑が30万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく刑事訴訟法198条の規定による出頭の求め(いわゆる任意での取り調べ)に応じない場合に限り逮捕できます(刑事訴訟法199条1項ただし書)。

逮捕状の形式

逮捕状には、

  • 被疑者の氏名及び住居
  • 罪名
  • 被疑事実の要旨
  • 引致すべき官公署その他の場所
  • 有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨
  • 発付の年月日
  • その他裁判所の規則で定める事項

を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければなりません(刑事訴訟法200条1項)。

逮捕の方法

逮捕状により被疑者を逮捕する際には、逮捕状を被疑者に示さなければなりません(刑事訴訟法201条1項)。

もし逮捕状は発付されているものの、逮捕状を所持しないために被疑者に示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し被疑事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができます(刑事訴訟法201条2項・73条3項本文)。

これを緊急執行といいます。

緊急執行の場合でも逮捕状は逮捕後できる限り速やかにこれを示さなければなりません(刑事訴訟法201条2項・73条3項ただし書)。

現行犯逮捕

現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人(現行犯)といいます(刑事訴訟法212条1項)。

犯罪の実行行為を行いつつある者及び犯罪の実行行為を終了した直後の者をいいます。

現行犯逮捕は逮捕状なしに逮捕できます(憲法33条)。

犯人であることが明らかであり誤認逮捕のおそれが少ないことや、犯人を確保し犯罪を制圧する必要性が高いこと、逮捕の機会を逃すと被疑者が逃亡するおそれがあるほか罪証隠滅も防ぐ必要があるからです。

現行犯の要件

現行犯は「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者」をいいますので、犯罪が特定されていることを要します。

現行犯逮捕の場合にも逮捕にあたっては理由を告知する必要があります(刑事訴訟法201条1項・210条1項準用)。

準現行犯

刑事訴訟法212条2項は、「左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。」と規定しています。

このような場合を、同条1項の現行犯と区別するために、準現行犯と呼ばれています。

具体的には以下のようなケースです。

犯人として追呼されているとき

追呼は、「泥棒~!」「待て~!」など、犯人として追われているか犯人として呼びかけられている状態をいいます。

目撃者の車両によって追跡する場合などのほか、後を追いかける状況になくても他の者と紛れないようにする手段をとっていればこれにあたります。

贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき

「贓物」とは、窃盗や強盗といった財産罪で不法に領得された財物のことをいいます。

「所持」は現に身につけて携帯しているかそれに準じる事実上の支配下にある状態をいいます。

身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき

被害者の抵抗を受けたり、殴ったときの負傷が認められる場合や、被害者の返り血を浴びて服に血が付いていたり、カラーボールの占領が付いている場合などがこれにあたります。

誰何(すいか)されて逃走しようとするとき

「誰だ?」「そこで何をしているんだ?」と声を掛けられて逃げ出したような場合がこれにあたります。

私人逮捕

刑事訴訟法213条は「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」と規定しています。

つまり、現行犯逮捕については捜査機関以外の一般人にも逮捕権があります。

これを私人逮捕といいます。

現行犯人が現に犯行を行っているか行い終わったところであるため、逮捕して身柄を確保する必要が高く、誤認逮捕のおそれがないためです。

私人逮捕を行うには次の条件を満たす必要があります。

  • 犯人が現行犯人、準現行犯人であること(刑事訴訟法212条)
  • 30万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限る(刑事訴訟法217条)。

これらの条件に該当しないにもかかわらず逮捕した場合には、逮捕した人が逆に逮捕罪(刑法220条前段)に問われ得ることになります。

私人逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法214条)。

緊急逮捕

緊急逮捕とは、急を要するため逮捕状なく被疑者を逮捕し、逮捕後に一定の手続を求める制度をいいます。

刑事訴訟法210条前段は

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。

と規定しています。

緊急逮捕の要件

死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があること

法定刑が「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」であることを要します。

嫌疑の程度については、通常逮捕の場合には「相当な理由」とされているのに対し、緊急逮捕の場合は「充分な理由」と高くなっています。

急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないこと

逮捕しなければ被疑者が逃亡又は罪証隠滅をするおそれがあるため、裁判官から逮捕状を発布してもらう時間がないことをいいます。

逮捕する際には逮捕状は不要ですが、逮捕後は直ちに裁判官の逮捕状を求める手続を採らなければなりません。

逮捕の必要性

通常逮捕のような明文規定はありませんが、緊急逮捕も逮捕には違いはありませんので、逃亡や罪証隠滅のおそれなどの逮捕の必要性を要します。

緊急逮捕の手続

理由の告知

緊急逮捕の場合には「その理由を告げて」逮捕することができます(刑事訴訟法210条前段)。

被疑事実及び急速を要する事情の両者を告知する必要があり、いずれか一方でも欠けると逮捕は違法となります。

逮捕状請求手続

緊急逮捕の場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、逮捕状が発せられないときは直ちに被疑者を釈放しなければなりません(刑事訴訟法210条後段)。

緊急逮捕の場合には一刻も早く令状に基づくものとすることが重要であるため、逮捕状の請求権者には、通常逮捕の場合とは異なり、検察事務官や司法巡査も含まれます。

なお、条文上は明らかではありませんが、手続後には被疑者に逮捕状を呈示すべきとされています。

逮捕後の手続

引致

引致とは逮捕に付随する身体拘束をいいます。

逮捕された被疑者は弁解録取などの逮捕後の手続を安全かつ迅速に行うことができる場所にまで引致する必要があります。

被疑者を引致すべき場所については逮捕状の記載事項とされています。

送致

司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与える必要があります(刑事訴訟法203条1項)。

そして、留置の必要がないと思料するときは直ちに被疑者を釈放します。

これに対し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければなりません(刑事訴訟法203条1項)。

被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければなりません(刑事訴訟法203条4項)。

勾留請求

検察官が、司法警察員から被疑者の送致を受けたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放します。

これに対し、留置の必要があると思料するときは、被疑者を受け取った時から24時間以内、被疑者が身体を拘束された時から72時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりません(刑事訴訟法205条1項・2項)。

なお、検察官が、

  • 自ら逮捕状により被疑者を逮捕したとき
  • 検察事務官から逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったとき
  • 私人から現行犯人を受け取ったとき

は、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放します。

これに対し、留置の必要があると思料するときは、被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりません(刑事訴訟法204条1項・216条)。

逮捕されるか否かの違いは何か

以上のように、逮捕には通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕を3種類があります。

これらのうち、現行犯逮捕や緊急逮捕は例外的な場合(特に緊急逮捕は例外中の例外といえます)ですので、一般的に「逮捕されるか否か」ということが問題となるのは通常逮捕ということになります。

では、罪を犯せば必ず逮捕されるといえるのでしょうか。

この点については、まず捜査機関が被疑者を逮捕する必要があると判断するか否かから始まります。

捜査機関が逃亡や罪証隠滅のおそれがないと判断している場合には、そもそも逮捕状を請求しません。

捜査機関が逮捕の必要があると判断し、検察官又は司法警察員が逮捕状を請求した場合でも、担当の裁判官が「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」とは認めない場合や、逃亡や罪証隠滅のおそれがないと判断した場合には逮捕状を発付しないため、逮捕はできないということになります。

このように、罪を犯せば必ず逮捕されるというわけではなく、所定の手続を踏んだ場合のみ通常逮捕されるということになります。

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